日本のDATは何を模倣したのか

2025年、日本でもビットコインを財務戦略の中心に据える上場企業、いわゆるDAT(digital asset treasury)が相次いで現れました。 本家ストラテジーの検討で得た結論は、あの会社の本体は「ビットコインを買うこと」ではなく「ビットコインの欠点を金融商品に加工して売ること」にある、というものでした1。 この物差しを日本勢に当てると、各社が模倣したものの違いがはっきり見えます。 先に結論を言えば、日本のDATは「物語だけを買った企業」と「機構まで移植した企業」の二層に分かれ、後者は一社しかありません。

日本にだけあった本物の歪み

前提として、日本には米国にない歪みが一つありました。 現物ETFが承認されておらず、個人が現物を売却すると雑所得として最高55%の税率が掛かる一方、上場株式の譲渡益は約20%の分離課税で済むという非対称です2。 ビットコインを株式の形で持てることに、実質的な税務上の価値がある。 つまり日本では、株式ラッパーが純資産価値を上回って取引されることに、投機ではない合理的な根拠が存在しました。 2024年のETF承認でアクセス価値の根拠を失った米国と違い、日本のDATには収穫できる歪みが残っていたのです。 ただし、後で見るように、この歪みには寿命があります。

物語だけを買った企業

第一の層は、ストラテジーの資産側だけを複製した企業群です。 二つの実例を挙げます。

ある企業は、本業のサービス業が伸び悩むなか、2025年に百億円規模を投じてビットコインを取得しました。 しかし同年秋には方針を転換し、2026年夏に全量を売却して撤退します。 売却損は約3億円、売却資金の主な使途は社債の償還で、戦略を主導した役員は評価損の経営責任を明確にして退任しました3。 参入から撤退まで、およそ1年の往復です。 この結末は不運ではなく、構造から読めるものでした。 償還期限のある負債でボラタイルな資産を買い、その上に売る商品を何も持たなければ、価格下落に対する選択肢は売却しかありません。 ストラテジーが2022年の急落で学び、以後二度と戻らなかった構造(価格に対して脆い負債とビットコインの組み合わせ)を、初手からやっていたことになります。

別のある企業は、本業のアパレルから軸足を移し、現在も買い増しを続けています。 注目すべきは掲げている目標で、「保有量で世界ランキングの上位に入る」ことです。 1株あたり保有量の増加でも、証券の販売条件でもなく、保有枚数の順位。 これは金融商品の製造業の指標ではなく、物語の指標です。 株価がビットコインの物語で再評価されることを事業の代わりにする戦略であり、買い手は機関資金のプールではなく、物語に乗る個人投機です。 撤退した前者と継続中の後者は対照的に見えますが、負債側に商品がなく、プレミアムの源泉が物語である点で、同じ層に属します。

機構まで移植した企業

第二の層にいるのがメタプラネットで、この層には現状この一社しかいません。 ストラテジーの部品との対応関係を並べると、移植の本気度が分かります。

  • MSワラント(行使価額修正条項付新株予約権):米国型ATMが使えない日本で、株価プレミアムを少しずつ現金化してビットコインに変える機能を、第三者割当ワラントの連続行使で再現した
  • MERCURY永久優先株(年4.9%、無議決権):STRFやSTRCに当たる利回り商品。「普通株の希薄化を抑えて買い増すフェーズへ」という説明まで、2025年の本家の語りをなぞっている4
  • オプション権利料の収益化:ビットコインのプットやコールを売って権利料を稼ぐ「ビットコインインカム」事業。ボラティリティの現金化を、転換社債とは別の経路で実装した
  • KPIと開示の様式:BTC Yieldの採用、頻繁な買付開示、保有目標の公表。語彙も同期しており、2026年には本家と同じ「デジタルクレジット」構想を掲げている

さらに一点、単なる複製を超えた発見があります。 優先株の利率です。 本家が10%から12%を要求される商品を、メタプラネットは4.9%で売れています。 これは信用力の差ではなく市場の差で、円金利の世界では利回りの相場自体が低く、利回りに飢えた円資金という別の池が存在します。 調達通貨の裁定という、本家がユーロ建て優先株(STRE)で後から始めたことを、円で先にやっている形です。 「ビットコインの特性から金融商品を作って売る企業」という定義を日本で満たしているのは、現状この一社だけです。

それでも残る二つの構造差

模倣が本気であるほど、複製できていない部分が際立ちます。

第一に、ボラティリティの売り方が「発行」ではなく「トレーディング」です。 本家は転換社債という証券を発行し、オプションのリスクと収穫は買い手に渡します。 自分はオプションの損益を負いません。 メタプラネットのオプション収入は、自社の勘定でプットやコールを売って権利料を稼ぐ商売で、ショートオプションのリスクが自社のバランスシートに載ります。 プットの売りは急落時に高値で買う義務であり、暴落局面では保有分の評価損と権利行使の損が同時に来ます。 証券の発行体と自己勘定のデスクは、同じ「ボラティリティの現金化」でも危険の所在が逆です。 この収入が損益計算書で営業利益として表示され、本業の収益力に見える点にも注意が要ります。

第二に、資金の池の深さです。 本家の商品は、多数の転換アービトラージファンドと広いインカム投資家層という、深く分散した機関資金に売られています。 メタプラネットのワラントの割当先は実質的に単一の相手であり、優先株と株式の買い手は主に国内の個人です。 池が浅く集中していると、一つの相手の方針転換や個人の熱の冷めが、そのまま調達の停止になります。 商品を売る事業としての頑健性は、本家と一段違います。

歪みの寿命

最後に、日本のDAT全体に掛かる制約を置きます。 冒頭で見た日本の歪み(ETF不在と税制の非対称)は、まさに立法によって消されつつあります。 暗号資産の税制を株式並みの分離課税へ改める議論と、現物ETFを解禁する議論がともに進んでおり、実現すれば株式ラッパーのアクセス価値は根拠を失います2。 皮肉なことに、ビットコインの制度化という、DATの物語が前提にしている追い風そのものが、DATのニッチを先に削っていく。 実際、メタプラネットの株価プレミアムはすでに大きく圧縮されており、そのなかで保有枚数の大きな目標を追えば、増発は既存株主の毀損側に回ります。

同じ試験を、別の装備で

まとめると、日本のDATは二層です。 物語の再演に賭けた企業群と、機構まで移植したメタプラネット。 そのどちらを測る物差しも、本家ストラテジーです。 第一の層の評価は単純で、売る商品がない以上、それは金融加工業ではなく、負債で行うビットコインの現物投資です。 一往復で撤退した実例は、その構造の帰結をほぼ最短で示しました。 メタプラネットの評価は単純ではありません。 商品はあり、円という独自の池も見つけた。 しかしボラティリティのリスクを自社で抱え、資金の池は浅く、立脚する歪みには立法の期限が迫っています。 本家が2026年に受けている「プレミアム消失後を生き延びられるか」という試験を、メタプラネットはより薄いクッションで受けることになります。

観察点は本家と同じです。 保有枚数ではなく、商品の販売条件を見る。 優先株の追加発行が想定利率でできているか、ワラントの行使が続いているか、オプションの売りが急落を挟んでも利益で残るか。 「何BTC持っているか」は物語の数字であり、「いくらで売れているか」が事業の数字です。 この物差し自体が、本家の検討から持ち帰るべき一番の道具だと思います。

  1. 本家の検討は「ストラテジーは何を売ってビットコインを買ってきたか」「ストラテジーはなぜ金利0%で10億ドルを借りられたのか」「ストラテジーの永久優先株を分解する」「ストラテジーはただビットコインを買っているだけなのか」「ビットコインが金になった日のストラテジー」の5本で行った。 ↩

  2. 個人の暗号資産売却益は雑所得として総合課税(最高税率55%)、上場株式の譲渡益は約20%の申告分離課税。2026年時点で、暗号資産を申告分離課税へ移す税制改正と現物ETFの解禁が政府内で議論されている。 ↩ ↩2

  3. 2025年の取得総額は約104億円、2026年8月に売却完了、売却損約2億9,800万円、売却資金約81億円は社債償還と自社株買いに充当(同社開示と報道による。企業名は伏せる)。 ↩

  4. MERCURY優先株は年4.9%の永久型・無議決権。オプション収益を柱に2026年12月期は営業利益114億円(前期比81%増)を見込むと報じられている。保有は2026年7月時点で約43,000BTC、目標は2026年末10万BTC、2027年末21万BTC。 ↩