モルガン・スタンレーはビットコインをどう扱い始めたか

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この動画は、Bitcoin Magazineによるモルガン・スタンレー(Morgan Stanley)のデジタル資産戦略責任者、エイミー・オルデンバーグ(Amy Oldenburg)氏へのインタビューです(2026年10月15日公開)。
同行で25年のキャリアを持ち、同行初の現物ビットコインETFの立ち上げを主導した同氏が、機関投資家や富裕層(ウェルス・マネジメント)の視点から見たビットコインの現在地、ステーブルコインやトークン化(RWA)、量子コンピュータのリスクなどについて語っています [00:00]。
主な論点は以下の通りです。

1. モルガン・スタンレーのビットコインETFと顧客動向

  • ローンチから半年間のトレンド: 自行の現物ビットコインETFの立ち上げから6ヶ月が経過した段階であり、まずは1年間のデータを蓄積してトレンドを見極める方針です [01:49]。
  • 自己判断(Self-directed)とモデル・ポートフォリオ: 当初はウェルス部門のアドバイザー主導での資金流入が想定されていましたが、実際には顧客自身の判断(Self-directed)による購入もかなりの割合を占めています [02:02]。また、単発のポジション取得にとどまらず、より広範なアセットアロケーション(モデル・ポートフォリオ)の中にビットコインが組み込まれ始めている兆候があり、これを非常にポジティブなサインとして注視しています [02:30]。

2. 「デジタル・ゴールド」としての投資仮説と値動きのギャップ

  • リスク資産との連動に対する課題感: モルガン・スタンレーとしては、ビットコインは「デジタル・ゴールド」として機能し、ポートフォリオ内でその役割を果たすべきだという強い論理(Rationale)を持っています [03:19]。今年のビットコインのボラティリティ自体はハイテク株よりも低く抑えられていたものの、直近で金(ゴールド)の価格が上昇する局面でビットコインが下落するなど、依然としてリスク資産と連動して取引される場面が見られます [03:25]。
  • 複合的な要因の絡み合い: 過去6年間で見れば金との相関が高まる場面もありましたが、足元では以下のような複数の要因がビットコインの価格形成や需給に影響を与えていると分析しています [06:37]。
    • 新興国におけるステーブルコインの普及: これまでビットコインを利用していた新興国の人々が、ステーブルコインへのアクセスを得たことで需要の一部が流れている可能性 [07:42]。
    • マクロ環境とテクノロジー要因: インフレ指標の動向、AIを巡る動き、量子コンピュータへの懸念などが投資家心理に複合的に作用している点 [08:02]。

3. 現物拠出(In-Kind Conversion)と担保レンディングの需要

  • セキュリティと相続対策からのETF移行: 6月にGalaxyと開始した現物ビットコインからETFへの現物転換(In-Kind)の枠組みについて、非常に高い関心が寄せられています [04:09]。ハードウェアウォレットの自己管理に伴うセキュリティ上の懸念や、ウェルス・マネジメントのシステム内に資産を統合することによる遺産相続・資産承継(Estate Planning)のしやすさが主な動機となっています [04:26]。ただし、手続きや書類作業のハードルがあるため、現時点では「実際の転換実行数」よりも「問い合わせ・関心」の方が先行している状態です [04:42]。
  • ビットコイン担保ローンの拡大: ETP(上場取引型金融商品)を担保にしたレンディング(借り入れ)に対する顧客の需要は極めて強く、すでにサービスを提供しており、今年に入って与信枠(リミット)の引き上げも行っています [05:45]。また、傘下のE*TRADEで提供している現物暗号資産取引においても、将来的に現物を担保としたレンディングを提供できるよう構築を進めています [06:01]。

4. ビットコイン上のステーブルコインと量子コンピュータリスク

  • ビットコイン上のUSDT等の動き: UTXO ManagementやTether(Paolo Ardoino氏)らとの「ビットコイン上のステーブルコイン」に関する会合について問われ、業界全体と緊密に情報交換を行っていると回答しています [00:17]。ビットコイン・ネットワーク上でステーブルコインを構築する動きを含め、「デジタル・マネー」の議論はまだ初期段階にあり、現時点で特定の勝者を決め打ちせず全方位で注視しています [01:06]。
  • 量子コンピュータのリスク評価: 一部の投資家が量子コンピュータによる暗号解読リスクを警戒してビットコインを敬遠していることは認識しているものの、モルガン・スタンレーとしては短期的(Near term)な脅威とは見ていません [08:02]。ただし、長期的にはビットコインに限らず銀行業務全体に関わる課題であるため、AIと同様にロードマップに組み込んで継続的に調査・研究を行っています [09:10]。

5. トークン化(Tokenization)と決済インフラの進化

  • 2027年に向けた市場の変革: 株式を含むあらゆる資産のトークン化(2030年までに3〜10兆ドル規模との予測)について、異なる資産クラスを同一のテクノロジー・インフラ上で動かすことによる効率化のポテンシャルを高く評価しています [10:09]。米国預託証券決済機構(DTCC)や海外のクリアリングハウスも24時間365日取引への移行を模索しており、これまで証券化するには管理コストが高すぎた商品の市場投入も可能になると見ています。特に2027年は多くのプロジェクトが実際に市場に出る重要な年になると予測しています [11:07]。
  • 「キャッシュ・レッグ(決済資金側)」のデジタル化: トークン化された株式や資産を取引する際、反対側の決済資金(Cash leg)もデジタル・レール上にある必要があります [13:06]。これについては「ステーブルコイン」「トークン化預金(Tokenized deposits)」「トークン化MMF」のいずれか一つに絞られるのではなく、すべてが並行して使われるようになると見ています [13:19]。また、同行はこれらの新技術を安全な環境で検証するためのサンドボックス「デジタル・アセット・ラボ」を立ち上げています [13:36]。
  • レガシーシステムとのハイブリッド運用: DTCCのトークン化サービス開始などインフラが整う一方、伝統的金融機関にとっての最大の難所(Heavy lift)は、ブロックチェーン技術の構築だけでなく、既存のレガシーなインフラを近代化し、顧客に裏側の技術を意識させない「ハイブリッドな世界」をシームレスに稼働させ続けることにあると強調しています [14:24]。

6. AIエージェント経済圏(Agentic Economy)との交差点

  • AIとデジタル資産の融合: 24時間稼働するオンチェーンのトークン化市場と、AIエージェントによる自律的な取引(Agentic Economy)の親和性について、1年前には議論すらされていなかったツールがここ数週間〜数ヶ月で急速に立ち上がっていると言及しています [16:24]。デジタル資産単体で考えるのではなく、AIとデジタル資産が交差するイノベーションの領域として、2027年に向けて最も注視すべきテーマの一つに挙げています [17:02]。

考察: 銀行の仕事は、ビットコインを他の資産と「同じ棚」に置くこと

17分を通して聞くと、ビットコイン固有の論点は意外に少ないと感じます。 ETF への資金流入、現物から ETF への転換、ETF を担保にした借り入れ、相続のしやすさ。 どれも、顧客のビットコインを銀行のシステムの中で株式と同じ棚に置く作業の話です。 その先に同行が見ているのは、株式や預金もブロックチェーンに載せるトークン化です。 銀行がビットコインを自分の棚に収める一方で、棚のほうをブロックチェーンへ移す準備も進めている、ということです。

顧客の側の動きも、この見方と合います。 同行はアドバイザー主導の流入を想定していましたが、実際には自分の判断で買う顧客がかなりの割合を占め、買ったものがモデル・ポートフォリオの一枠へ移る兆候も出ています。 以前の記事で、米国の現物 ETF は8割が個人の保有で、残る2割の機関分もほどけば投資顧問や銀行のウェルス・マネジメント部門を通した個人の資産が大半だと書きました。 今回の発言は、その「ウェルス経由」の現場からの報告です。

担保市場を扱った記事で、資産を担保に借り、資産を貸し借りする層だけが空いていると書きました。 「極めて強い」という今回の発言は、空いていた層のうち「売らずに借りる」入口がウェルス・マネジメントの顧客向けに開いた一例です。 ただし、同じ記事で進み具合の目安にした二つ、バーゼル規制の見直しと清算機関の適格担保リストには、今回のインタビューは触れていません。 現物そのものより ETF の持ち分が先に担保になったのは、銀行の既存システムで評価と担保の受け入れを処理できるからだと筆者は推定します。 セキュリティと相続を理由に現物を ETF へ移したいという問い合わせ(実行はまだ少ない)も、同じ理屈です。 顧客が欲しいのは、手元のビットコインを他の資産と同じ棚に置ける状態だと読めます。