Luke Gromen は何を主張してきたか

Luke Gromen は、米国の財政とドル体制を軸に相場を語るマクロ調査家です。 2025年11月、彼は長年持ってきたビットコインの大半を、9万5,000ドル前後で売りました1。 それでも、長期の見立ては変えていないと言い続けています。 売った人が、なぜ強気のままなのか。 答えは、彼の議論がビットコインから始まっていないところにあります。 出発点は米国の財政の算術で、そこからドル体制とゴールドを通って、ビットコインには最後にたどり着きます。

https://x.com/LukeGromen

Gromen はシンシナティ大学で財務と会計の学士を取り、ケース・ウェスタン・リザーブ大学で MBA を修め、2003年に CFA を取得しました2。 株式調査会社 Midwest Research で1996年から10年間、調査と機関投資家向け営業に携わりました。 続く8年は Cleveland Research Company の創業パートナーとして週刊のテーマ調査を編集し、2014年初めに独立して調査会社 FFTT(Forest for the Trees)を立ち上げています2。 著書には、架空の米国債権者との対話で世界の通貨体制を描いた『The Mr. X Interviews』二巻があります3。

https://fftt-llc.com/

義務的支出が税収を超えた

Gromen の議論の土台は、米国連邦政府の収入と支出の比です。 2026年6月の番組で挙げた数字では、連邦政府の税収がおよそ年5兆ドル、純利払い費が年1兆ドル超、債務は GDP の120%前後でした4。 同じ番組での「国債の状況を無視すれば、何もかもかなり良く見える」という一言が、彼の見方をよく表しています4。 彼がとくに重く見るのは、利払いに社会保障などの給付と退役軍人への給付を足した数字で、これを「真の利払い費」と呼んでいます。 税収に対するその比率は、2025年11月の時点で96%でした5。 2026年8月には105%に達し、この義務的支出が年7.5%で伸びるのに、税収は4%しか伸びていないと彼は指摘しました6。 裁量的な支出に一ドルも回す前に、収入を使い切っている計算です。

この算術から、彼は米国がいま財政支配の状態にあると見ます。 債務と赤字が大きすぎて、中央銀行の金利政策がインフレを抑える道具として働かなくなった状態を、財政支配と呼びます。 彼の言い方では、利下げはインフレの中でも景気を刺激し続け、利上げは利払いを膨らませて赤字を広げます5。 出口について彼は率直です。 高いインフレこそが米国の財政支配を終わらせる唯一の道だ、というのが2026年8月の番組で示された主張でした7。 口癖は「数学は数学をする」(The math is going to math)です8。 政治がどう取り繕っても、算術の結果はそのとおりに出る、という意味です。 長期の米国債を「没収の証明書」(certificates of confiscation)と呼ぶのも、この算術から出てくる結論です8。 持っているあいだにインフレで実質の価値を取り上げられていく債券なので、投資に値しない、という位置づけです。

外国が国債を買わなくなった経緯

財政の算術だけなら、同じことを言う論者は大勢います。 Gromen が違うのは、その赤字を誰が引き受けてきたかという、資金の流れの側から入るところです。 彼の説明では、2014年ごろを境に外国の中央銀行は米国債の純買い手でなくなり、代わりに規制で国債を持たされた米国の銀行が引き受けました。 「2014年に銀行は規制によって国債を買わされた。銀行の保有する国債と政府機関債は2014年の1.8兆ドルから2021年には4.6兆ドルになった」9。 外国の需要が細ったあとは、ドルと金利が互いを押し上げる循環が起きる、と彼は言います。 「ドルが一段上がるたびに、外国人は国債をさらに売らざるを得なくなる。その売りで金利が上がり、金利高がドルを押し上げ、ドル高がまた国債売りを呼ぶ」9。

では、外国は国債の代わりに何を買っているのか。 彼の答えはゴールドです。 2024年10月の番組で彼は、産油国と外国の中央銀行が余剰を米国債でなくゴールドで蓄える動きを「ゴールドのリサイクル取引」と呼びました10。 起点は2008年ごろに Putin が始めたゴールドの蓄積です。 2022年に米国がロシアの外貨準備を制裁の対象にしてから流れは速まり、世界の中央銀行によるゴールドの購入は年1,000トンを超えるようになりました10。 彼らしい材料が、市場の大きさの比較です。 「石油市場は、年間の生産額をドルで測ると、ゴールド市場の12〜13倍の大きさがある」10。 石油の余剰のほんの一部が流れ込むだけでも、ゴールド市場にとっては大きな量になる、という比較だと筆者は読みます。 産油国がドル以外の通貨で代金を受け取ると、相手国の国債は買いにくくても、ロンドンやスイスやシンガポールでゴールドなら買えます。 石油の余剰はこの経路でゴールドに流れる、というのが彼の描く機構です10。

米国の側は、発行を短期に寄せて対応しました。 中央銀行が長期債を買わなくなった結果、財務省は短期債(T ビル)の発行を増やし、週あたりの総発行額は2013年の1,000億ドルから2024年には5,000億ドルを超えました10。 2025年11月に彼が挙げた数字では週5,500億ドルで、2013年からの伸びは年率15%です5。 その帰結として彼が挙げるのが、準備資産の構成の変化です。 「外貨準備に占める米国債の比率は、ピークの71〜72%から58%まで落ちた」(2025年1月)11。 世界の準備に占めるゴールドの比率が27%となり、国債の22%を上回った、と述べたのは2026年6月です4。

中立的準備資産という処方

ここまでが診断で、ここからが処方です。 Gromen は準備通貨の問題を、トリフィンのジレンマとして立てます。 基軸通貨国は世界に通貨を供給するために赤字を出し続けねばならず、赤字が積もれば通貨の信認が崩れる、というジレンマです。 その解き方を、彼はこう語ります。 「トリフィンのジレンマという、ほどけない結び目を断ち切る方法は、役割を分けることだ。すべての通貨に対して価格が自由に動く、中立的な準備資産を用意すればいい」11。 ここで分ける役割とは、取引に使う通貨としての役割と、価値を蓄えておく準備資産としての役割です。ドルには前者を残し、後者を中立的な資産に任せる、という発想です。 どの国の負債でもなく、どの国の政策にも従属しない資産を、彼は中立的準備資産と呼び、その第一候補にゴールドを置きます。 「このジレンマを避けるには、決済資産を国債から、ゴールドのような中立的準備資産へ移せばいい。その動きはもう始まっていると思う」12。 決済資産とは、国と国の貸し借りを最終的に清算するときに使う資産のことです。

この処方の面白いところは、ドル安とドル体制の強化が両立するという主張です。 「ドル体制が強くなることと、ドルが弱くなることは両立する。そしてそれこそ、Trump 大統領が望んでいるものだ」11。 ゴールドが大きく上がれば、ドル体制はよりゴールドに裏づけられて強くなり、ドルは弱くなる、という理屈です。 彼はこれを、トリフィンのジレンマに中立的準備資産で折り合いをつける方法だと説明しています12。 ゴールドが関税を免れた2025年4月には、こう語っています。 「Trump はゴールドには関税を掛けなかった。ペンギンしかいない島にまで、世界のあらゆるものに掛けたのに、ゴールドだけは外した。つまり、資本にはゴールドへ向かってほしいということだ」12。 ペンギンの島とは、南極に近い無人島(ハード島とマクドナルド諸島)まで関税の対象に入っていたことを指します。 製造業の国内回帰も、ドル体制の話として説明されます。 1971年にドルと金の交換が止まってから、米国は国債やドル資産を世界に渡し、その代わりにものを買う形で回ってきました。 工場を国内に戻すとは、この形をやめることだ、というのが彼の言い分です。 「我々にできるのは、国債や金融資産を輸出するか、ものを作るかのどちらかだ。ものを作るほうを選ぶなら、1971年以降のドル基軸の構造は終わる」12。

ゴールドの再評価は、この処方を実行する手段です。 米国が保有するゴールドをオンスあたり1万〜2万ドルで評価し直せば2.5兆〜5兆ドルが生まれ、国債への需要に頼らずに財政を安定させられる、と彼は2025年11月の番組で述べました13。 この流れを一時の取引とは見ていない、とも言っています。 「これは debasement(通貨の価値の目減り)に賭ける一時のトレードではない。debasement は長期にわたる趨勢だ」13。 ゴールドそのものの見方は、2025年12月の対談によく出ています。 「ゴールドは、利回りゼロで、満期がなく、額面に上限のない債券にすぎない」「ゴールドは蓄えられたエネルギーだ。それ以上でも以下でもない」14。 利息は付かないが、返済の期限もなく、値段の天井もない、という見立てです。 ゴールドと石油の比率を「米ドル体制の健康状態を示す圧力計」と呼んだのも、同じ対談です14。

新しい石油としてのビットコイン

ビットコインは、この処方に後から加わりました。 彼の議論では、ビットコインはゴールドと同じ賭けのもう一つの表現で、ゴールドより値動きの大きい版です。 米国の戦略の側からそれを言い直したのが、2024年12月の「ビットコインは新しい石油だ」という比喩でした。 金の裏づけを失ったあとのドルを支えたのは、石油でした。産油国が石油をドルで売り、その代金で米国債を買う仕組みです。 その石油の役割について、彼はこう言います。 「石油価格があれだけ上がったことで、石油は、ドルと米国の赤字を裏づけられるほどの大きさになった」15。 ビットコインも十分に値上がりすれば同じ役を担える、というのが比喩の中身です。 同じ対話で、彼は米国にとっての損得の計算(ゲーム理論)が変わったと言います。 「国内の政治の安定にしても、中間層と労働者層を取り戻すことにしても、防衛産業の基盤を立て直すことにしても、行き着く先はどれも中立的準備資産だ」15。 ビットコインの上昇も、米国が抑えるべき脅威とは見ていません。 「ビットコインは、台頭してくる脅威などではない。むしろ、もっと速く上がってもらわないと困る。そうすれば我々の資産の余力が増え、生産を国内に戻すためにインフレを起こしていく間も、国民が実質的な価値を失わずに済む」15。

同じ筋書きを、2025年1月には一つの文にまとめています。 ビットコインが1973〜74年の石油のように半年で4倍になったら、と仮定した話です。 中国に米国の産業を持たれすぎたくないのは、1974年に産油国に持たれすぎたくなかったのと同じだ、と前置きしたうえで、こう続けます。 「そうなれば、ドル体制は強くなり、ドルは弱くなり、米国の産業は競争力を取り戻し、インフレと名目成長が起きる。そして世界には、ドルの黒字を流し込めるだけの大きさになった中立的準備資産ができる。彼らは、米国の企業や産業を買い込むのをやめるだろう」16。 ただし、ドルに取って代わるとまでは言いません。 「ビットコインが世界の準備通貨としてドルに取って代わるとは思わない。ただ、ビットコインがゴールドと並んで、準備資産としての国債に取って代わり始める可能性はあると思う」11。 戦略的ビットコイン準備については、公表の順序に注文をつけています。 表では好意的に語りながら、裏で買い進めて値動きを管理する。それが先で、発表は買い終えてからにせよ、という助言です17。 2024年8月には、30年債にビットコインの上乗せをつけて発行する案も語っていました18。 2025年10月に中国がレアアースの輸出を絞ったときにも、同じ1971年の構造を持ち出しました。 「中国は、米国の兵器システム向けにレアアースを売るのをもうやめた。これで1971年以降のドル構造は終わりだ」19。 中国は長い経済対立に耐えられるが、米国は兵器の供給網をすぐには作り直せない。そのことが露わになった、という読みです。 解決策として彼が挙げるのは、通貨の側です。 「解決策は政治ではなく、通貨にある。ビットコインかゴールドだ」19。 ドルの支配が弱まるにつれ、国債に代わって準備資産として選ばれるのはこの二つだ、という見立てです19。

米国当局がビットコインを抑えようとする、という見方も、彼は早くから持っていました。 2023年4月、暗号資産企業の銀行口座が閉じられていった動きを、彼は「当局は、上がると自分たちの見栄えが悪くなるものを、上がらせたくない」と読みました20。 ビットコインが上がれば、ドルの価値が目減りしていることが目に見えてしまう、という含みに取れます。 この動き(Choke Point 2.0)は、政府の一部が上がってほしくない資産クラスへの資本規制のように見え始めている、とも言います。 背景にあるのは、政策が「短期間に集中した高インフレ」に行き着くしかないと当局が見始めている、という読みです20。 抑圧の見立てと戦略的活用の見立ては矛盾して見えますが、筆者の読みでは、彼の中で両者は同じ前提から出ています。 インフレによる債務の希薄化は避けられず、その過程で上がる資産を政府は制御したがる。 制御の仕方が、抑えるか抱き込むかで変わるだけです。

煙探知機としてのビットコイン

Gromen はビットコインに、市場の流動性を映す計器という役割も負わせています。 彼がビットコインを「電源を切れない煙探知機」と呼んだのは2025年1月です17。 ゴールドの価格は、現物と紐づかない紙の取引(未割当ゴールド)で管理されてきたが、ビットコインにはその手段が効きにくい、という対比です。 同じ年の11月には「ビットコインは、早い段階で現金を作るための資産の一つにすぎない」と言いました5。 市場が締まって資金が要るとき、まず売られるのがビットコインだ、という説明です。 2026年6月になると、言い方はさらに強くなります。 「AI が部屋の酸素を、つまり市場の資金を、全部吸い上げている」「資金の異変を知らせる煙探知機として、ビットコインはまだ機能している数少ないもの、ひょっとすると最後の一つだと思う」21。 その探知機が告げているのは「良くないこと」だ、と彼は続けました21。

この計器の役割は、彼の短期の見立てを組み立てる部品です。 流動性が締まる局面では、まずビットコインが落ち、次にゴールド以外のすべてが落ちる。 2023年10月の言い方では「短期で効くのは現金だけ」で、コンセンサスが崩れて FRB が買い支えに回ると「ゴールドが猛烈に走り出し、ビットコインが猛烈に走り出す」9。 順序があるのです。 まず締まり、次に政策が折れ、それから希少資産が走る。 この順序の感覚が、後で見る2025年末の判断に直結します。

ステーブルコインの見方も、ここにつながります。 発行体が T ビルを買うことで国債の需要を作る構想を、彼は「国債市場の崩壊を防ぐためのヘイルメリー」(負けている側が最後に投げる一か八かのロングパス)と呼びました5。 その時点の市場規模は3,000億ドルで、3兆ドルという目標に見合う需要の仕組みは示されていない、というのが彼の評価です5。 2026年8月には、ステーブルコインで国債の買い手を増やすという財務長官の構想に、皮肉を込めて書いています。 「連邦債務をすべて T ビルに置き換え、その T ビルを裏づけに利回りゼロのステーブルコインを出し、さらに T ビルの金利を0.60%に下げれば、100%その通りになるかもしれない。そのときは、ゴールドとビットコインをもっと持ちたくなるだろうけれど」22。 この構想どおりにするには、ここまで無理な手順を踏まなければならない、という皮肉です。最後の一文が本音です。 ステーブルコインは財政の資金繰りの道具であり、それが進むほど希少資産の値打ちが上がる。 彼の中では、この二つは同じ文の前半と後半です。

2025年末に大半を売った理由

売ったのは2025年11月の中旬から下旬で、価格は9万5,000〜9万6,000ドルの範囲でした23。 12月の番組での説明は、まず技術的なものです。 「このテクニカル指標が崩れた過去3回は、いずれも、ビットコインの下落率の中央値が65〜70%だった」1。 次に規模の問題です。 「ポートフォリオの中で比重が大きくなりすぎていた。だから適正な大きさに戻し、ポジションを大きく減らす必要があると感じた。まだかなり下がると思っているからだ」1。 量子計算機の危険を少しでもヘッジしたいなら、一部を手放し始めるだろう、とも述べ、「来年前半はひどいことになる」と見通しました1。 その時点の全体観は「ゴールドとドル以外は、ほぼすべて打撃を受けそうだ」です1。

年末の動画で、彼はこの判断を「順序」の言葉で言い直しました。 「ビットコインを全部売ったわけではない。長期では今も前向きに見ている」「保有のかなりの部分を売ったが、感情や値段のせいではない。『順序』についての判断が変わったからだ」24。 順序とは、上で見た「まず締まり、次に政策が折れる」のことです。 いま AI とロボティクスが「指数的な」デフレ圧力を作っている、と彼は見ます24。 その圧力が信用収縮に転じる局面では、ビットコインは希少資産としてでなく「値動きの大きいテック株」として振る舞う、というのです24。 資本構造とは、損失を誰が先にかぶるかの序列のことで、最初にかぶる株式がいちばん脆い層にあたります。 「いまの体制の中で、ビットコインはまさに『株式の層』にあたる」「政策が本当に転換する前、つまり『核レベルの対応』(大規模な救済や緩和)が出てくる前は、資本構造のいちばん脆い層から離れていたい」24。 売ったのは、ビットコインの長期の性質を疑ったからではなく、直近の局面での性質を株式に近いと見たからです。

彼が見ている計器は、ゴールド建てのビットコイン価格、200日移動平均、ETF の資金フローの三つです25。 いちばん重いのは最初の計器で、ビットコイン1枚に要するゴールドの量が2024年12月の約40オンスから約20オンスに半減したことを、価値保存としての試験に落ちた印と読みました25。 下値については、2026年中に4万ドル前後も「あり得る」と述べています25。 2026年3月には売った理由を、金融ストレスの局面で劣後したこと、マネーサプライの増加に反応しなくなったこと、ゴールドに対して5年間ほぼ横ばいだったこと、の三つに言い直しました23。

買い戻しは、2026年6月の時点でも「少しつまんだ」程度です21。 同じ番組で、ビットコインもゴールドのように抑えられうるかを問われ、その仕組みを派生商品の膨張に求めました。 「抑え込むとすれば、デリバティブ(派生商品)を膨らませるやり方だろう。ゴールドで昔からやってきた手だ」21。 ビットコインを持ちたい人が、現物を買う代わりに、ビットコインを買う権利(コール)を買う。そのぶん現物への買いが減り、価格は上がりにくくなる、という理屈です。 「短期なら、見かけの値動きは管理できる。長期では無理だ」21。 長期の根拠として彼が置くのは、この一文です。 「中立的準備資産にとって、国家が債務を返せなくなること以上の追い風はない」4。

持ち方も、この二段構えをそのまま映しています。 2026年8月の時点で、ゴールドは最低で5〜10%、確信があれば25%以上。 ポートフォリオの2割ほどは、現金代わりに T ビル(満期1年以内の短期国債)で持ちます。 ほかに送電網などの電力インフラと産業株を持ち、長期の米国債は持ちません8。 「FRB が2022年に利上げを始めてから、S&P 500 はドル建てでおよそ60〜70%上がった。ゴールド建てでは25%下がっている」8。 「当局が CPI(消費者物価指数)はこうだと言っても、私はゴールドの値段を見せてくれと言うだけだ」8。 ドルで勝ってゴールドで負ける、という診断の中で、ビットコインはポートフォリオに戻る時機を待っている資産です。

外した予測とその処理

Gromen の予測は、方向は当たっても時期を外すことがあります。 よく挙がるのが2022年の例です。 彼は同年の第3四半期までに FRB が引き締めをやめ、流動性の供給に戻ると見ていました。 実際に起きたのは、FRB でなく財務省による供給でした。 「Janet Yellen は財務省一般勘定(政府が中央銀行に持つ預金口座)を記録的な額で取り崩し、大量のドル資金を市場に流した。それは四半期以上にわたって、FRB の量的引き締めを補って余りあった」9。 FRB は利上げと縮小を続け、彼の見た「折れる」瞬間は、形を変えて財務省の側に現れました。

2025年の予想は、同じ枠組みから時期と水準まで踏み込んだ例です。 2025年1月、彼は「2025年は、ドルが圧力の逃がし弁になる。この確信は、おそらく私のキャリアでいちばん強い」と述べ、ドル指数が106〜107から95〜100へ下げると予想しました17。 根拠は、税収が GDP の18%を超えると景気後退が起きるという彼の歴史データと、後退を避けるには通貨の側で調整するしかないという算術でした17。

この二つの例から、彼の議論の型が見えてきます。 出発点は「誰かが赤字を引き受けねばならない」という恒等式で、引き受け手が FRB か財務省か外国かステーブルコインかを、そのつど当てはめます。 2022年の外れは引き受け手の名前を間違えた例で、恒等式そのものは崩れていません。 だからこそ、彼の枠組みは反証されにくい、という批判が成り立ちます。 FRB が折れれば財政支配の証拠になり、折れなければ財務省の別の手段が証拠になる。 2026年8月には、財務省が国債の買い戻しを倍に増やしたことを、米国が「外貨建ての借金に苦しむ新興国」と同じ悪循環に入ったと初めて認めた動きだ、と読みました6。これもこの型の適用です。 この批判に対する彼の答えは、数字です。 真の利払い費が税収を超えている限り、引き受け手の名前が変わっても結論は変わらない、というのが彼の立場です。

二つの層と一つの賭け

Gromen の論は、ゴールドの論とビットコインの論の二層でできています。 下の層は、外貨準備と石油決済と地政学から入るドル体制の診断で、着地点は中立的準備資産としてのゴールドです。 上の層は、その賭けの値動きの大きい版としてのビットコインで、米国が戦略的に抱き込む可能性と、流動性の計器としての役割が加わります。 Lyn Alden の「止まらない列車」と同じ財政支配の診断に、彼は貨幣史や流動性でなく、資金の流れの側から着きました。 違いは温度と持ち方です。 Alden が硬い希少資産を持ち続けることを処方にするのに対し、Gromen は同じ長期の見立てのもとで、局面によってビットコインを持つ量を変えます。

彼の信念を端的にまとめれば、こうなります。 米国の義務的支出はすでに税収を超え、差は年々広がっている。 数学は数学をする。つまり、政治がどう動いてもこの算術からは逃げられない。 外国はもう国債を引き受けず、ゴールドに余剰を蓄えている。 出口は高いインフレで、その過程でドルは弱くなり、ドル体制は中立的準備資産に裏づけられて残る。 その資産の新しい候補がビットコインで、米国には石油のときと同じように抱き込む道がある。 ただし信用が縮む局面では株式の層として振る舞うので、順序を見て持つ量を変える。 2025年末に大半を売ったのはこの最後の一文の実行で、国家が債務を返せなくなることこそ中立的準備資産の最大の追い風だと言い続けているのは、その前の文の実行です。 売った人がなぜ強気なのか、という冒頭の問いには、これで答えが出ます。 長期の見立てと局面の判断を、彼は別々の文として持っているのです。

出典

本文の上付き番号がこの一覧に対応し、登場順に並べています。 引用の訳は筆者によるもので、括弧内に原文の要所を添えています。

  1. TheStreet(Yahoo Finance 転載), Longtime bull makes ugly prediction(2025年12月16日。”Basically everything but gold and the dollar are likely to get waylaid”、”When these technicals broke, each of the last three times, the median decline in Bitcoin was 65%–70% each time”、”The size it had grown in my portfolio, to me it just spoke to me a need to right-size it and substantially reduce positions. Because I think it’s going a lot lower.”、”If I thought quantum was a risk I wanted to at least hedge somewhat, I would start to take some off the table”、”The first half of next year is going to be ugly”) ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  2. FFTT, LLC, About Luke Gromen(経歴。”a BBA in Finance and Accounting from the University of Cincinnati”、”received his MBA from Case Western Reserve University”、”the CFA designation in 2003”、Midwest Research 1996〜2006、Cleveland Research Company 2006〜14 の創業パートナー、”Luke founded FFTT, LLC in early 2014”) ↩ ↩2

  3. FFTT, LLC, Books(『The Mr. X Interviews』第1巻と第2巻。架空の米国の債権者との対話という体裁) ↩

  4. TFTC, Luke Gromen: The Bond Market Says Tick-Tock(2026年6月3日。税収約5兆ドル、純利払い1兆ドル超、債務対 GDP 約120%、ゴールドが世界の準備の27%で国債が22%、”If you ignore what’s going on with sovereign debt, everything looks pretty good.”、”There’s nothing more bullish for a neutral reserve asset than sovereign insolvency.”) ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  5. The Investor’s Podcast Network, BTC254: Bitcoin & Macro Overview w/ Luke Gromen Q4 2025(2025年11月18日。真の利払い費が税収の約96%、T ビルの週次発行が2013年の1,000億ドルから5,500億ドルで年率15%、”You have got to choose one, eventually”、”Bitcoin’s just one of your early sources—it’s just the early source of liquidity”、ステーブルコインを “Hail Mary to prevent collapse of Treasury market”、市場規模3,000億ドルと3兆ドルの目標) ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6

  6. CMG Private Wealth Group, On My Radar: Plugging The Leak(2026年8月21日。Monetary Matters with Jack Farley「Why Bessent Blinked」での発言の紹介。給付と利払いと退役軍人給付が税収を約5%超える、年7.5%対4%の伸び、買い戻し倍増を “emerging market hard currency debt spiral problem” の自白と読む) ↩ ↩2

  7. Bob Murphy Show, Ep. 527 Analyzing Luke Gromen on Fiscal Dominance(2026年8月14日。What Bitcoin Did での Gromen の主張「高いインフレこそが米国の財政支配を終わらせる唯一の道」を番組紹介文が要約したもの。本人の逐語ではない) ↩

  8. AdvisorAnalyst, Winning the Rally, Losing the Decade(2026年8月19日。The Meb Faber Show での発言。”Since the Federal Reserve began hiking rates in 2022, the S&P 500 is up roughly 60-70% in dollar terms. In gold terms, it is down 25%.”、”The math is going to math.”、”certificates of confiscation”、”When I look at whatever they tell me CPI is, just show me gold.”、ゴールド5〜10%以上、T ビル約20%、電力インフラと産業株、長期米国債は持たない) ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  9. MacroVoices, Luke Gromen: The Dollar Treasury Feedback Loop, Deconstructed(2023年10月6日。”In 2014, banks were regulated into buying treasuries… they went from owning 1.8 Trillion in treasuries and agencies in 2014 to 4.6 by 2021”、”every tick higher in the dollar forces foreigners to sell more treasuries…“、”Janet Yellen ran down the TGA at a record amount, injecting massive dollar liquidity into the system, completely more than offset Fed QT for over a quarter.”、”short run, the only thing that will work is cash… gold is going to start absolutely running and bitcoin is going to start absolutely running”) ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  10. MacroVoices, Luke Gromen: Why The Gold Recycling Trade is Accelerating(2024年10月3日。2008年からの Putin のゴールド蓄積、2022年のロシア外貨準備への制裁、中央銀行の購入が年1,000トン超、”oil markets alone, on an annual US dollar production basis, are about 12 to 13 times the size of the gold market”、ロンドンとスイスとシンガポール、週次発行1,000億ドルから5,000億ドル超) ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  11. MacroVoices, Luke Gromen: 2025 Outlook(2025年1月8日。”the way you cut the Gordian knot of Triffin’s dilemma is by separating these components so that you have a neutral reserve asset whose value floats in all currencies”、”the dollar, the Treasury’s share, treasury bond share of FX reserves, has fallen from 71%, 72% at the peak to 58%”、”a stronger dollar system and a weaker dollar are not mutually exclusive, and they are what President Trump wants”、”I don’t think Bitcoin is going to replace the dollar as global reserve currency. I do think there is a possibility that we start seeing Bitcoin replace, join gold in replacing Treasuries.”) ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  12. The Daily Hodl, Macro Guru Luke Gromen Sees Bitcoin Benefiting From Gold Ascending As New Settlement Asset(2025年4月14日。”The way you get around it is you shift the settlement asset away from Treasuries to a neutral reserve asset like gold. I think that process has been started.”、”Trump did not put tariffs on gold. He put tariffs on everything else in the world, including an island full of penguins, apparently, but not gold, which tells me that’s where we want capital to go”、”if gold goes up a bunch, it’ll strengthen the dollar system because it’ll be more gold-backed and you’re going to weaken the dollar. That’s how you split the baby around Triffin’s Dilemma and a neutral reserve asset.”、”We can export Treasuries and financial assets, or we can make stuff, but if we want to make stuff, that’s the end of the post-1971 US dollar reserve status structure.”) ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  13. Bankless, “The Debasement Trade” - Luke Gromen on Gold, Bitcoin & The 100 Year Reset(2025年11月3日。”It’s not a debasement trade. It is a debasement secular trend.”、ゴールドを1万〜2万ドルで再評価して2.5兆〜5兆ドル) ↩ ↩2

  14. William Blair, Gold, Energy, and the Future of the Global Monetary System with Luke Gromen(2025年12月17日収録、22日公開。”Gold is just a 0% yielding bond of infinite duration and infinite face value.”、”Gold is simply stored energy. That’s all it is.”、”The gold oil ratio is essentially just a pressure gauge on the health of the U.S. dollar system.”、”I’m long term still very bullish on bitcoin.”) ↩ ↩2

  15. The Currency Analytics, Bitcoin Could Become Neutral Reserve Asset Amid National Security Crisis, Says Investor Luke Gromen(2024年12月16日。Robert Breedlove との対話。”What that oil price did by moving up that way was it effectively made oil big enough to back the dollar, to back the US deficits.”、”The game theory has changed around this. For national political stability, for bringing back the middle and working class for defense base re-establishment, all of these things are pointing to a neutral reserve asset.”、”Bitcoin isn’t a threat that is rising. It needs to go up faster so that we have more balance sheet capacity and so that our people, as we reinflate to re-shore all of this stuff, stay whole on a real basis while that happens.”) ↩ ↩2 ↩3

  16. Walker, LUKE GROMEN: Bitcoin Is The New Oil(2025年1月6日。THE Bitcoin Podcast。”Now we’ve strengthened the dollar system. We’ve weakened the dollar. We’ve made American industry more competitive. We’ve driven inflation and nominal growth. And we have provided the world a neutral reserve asset that is now big enough to recycle their dollar surpluses into where they stop buying all of our stuff.”。番組の文字起こし(Wave)では、直前に “Let’s say bitcoin goes up 400% six months just like oil did from October 73 to April 74” という仮定と、”we don’t want too much Chinese ownership of American industry, just like we didn’t want too much Arab ownership of American industry in 1974” という前置きがある) ↩

  17. The Investor’s Podcast Network, BTC215: Global Macro and Bitcoin Q1 2025 w/ Luke Gromen(2025年1月1日。”I have as high a conviction as probably as I’ve had in my career that the dollar is going to be the release valve in 2025.”、ドル指数106〜107から95〜100、税収が GDP の18%を超えると景気後退、”the smoke detector that couldn’t be turned off”、”I’ll buy it in the background and manage the chart as you talk positively about it”) ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  18. The Currency Analytics, Next US President Can Combat Massive Inflation by Using Bitcoin to Back Treasuries(2024年8月1日。What Bitcoin Did での提案の要約。30年債5兆ドルを2.5%で発行しビットコインの上乗せをつける案。本人の逐語ではない) ↩

  19. Bitbo, Luke Gromen: China’s Rare Earth Squeeze Boosts Gold & BTC Reserve Roles(2025年10月19日。”They’re done selling rare earths into U.S. weapon systems. That’s the end of the post-‘71 dollar structure.”、”The fix isn’t political, it’s monetary: Bitcoin or gold.”。記事の要約として、米国が供給網をすぐには作り直せないことが露わになった、ドルの支配が弱まるなかでゴールドとビットコインが国債に代わる準備資産になる) ↩ ↩2 ↩3

  20. The Daily Hodl, US Authorities Coordinating To Suppress Price of Bitcoin Before Hyper Inflation Takes Off(2023年4月18日。”[US authorities] don’t want things going up that make [them] look bad.”、”Choke Point 2.0, within this, starts to look like a capital control of an asset class that certain elements of the government would not want going up”、”They are starting to see the inevitability of where policy is going to have to go which is a compressed period of high rates of inflation”) ↩ ↩2

  21. Yahoo Finance(Stocktwits 転載), Bitcoin Is The ‘Last Functioning Smoke Alarm Of Liquidity,’ Says Macro Analyst Luke Gromen(2026年6月6日)および NewsBTC, Bitcoin Suppressed Like Gold? Luke Gromen Says It Can’t Last Forever(2026年6月11日。いずれも Natalie Brunell との2026年6月6日の対話。”AI is sucking all the oxygen out of the room, all the liquidity out of the room”、”I think Bitcoin is one of, if not the last functioning smoke alarm of liquidity”、”it’s telling us not good things”、”nibbled a little bit”、”I think the way they would do it is the expansion of derivatives, the way they’ve done it with gold historically”、”Somebody wants to own Bitcoin, but they’re not buying Bitcoin. They’re buying a call on Bitcoin.”、”In the short run, they can manage the optics. In the long run, they can’t.”) ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  22. Luke Gromen, X の投稿(2026年8月20日。”This could prove 100% accurate if he swaps ALL the Federal debt for T-Bills, then uses those T-Bills to back 0% yielding stablecoins, then cuts the rate on those T-Bills to 0.60% (b/c the banks don’t deserve 3.5% on stablecoins). You’re gonna want to own more gold & BTC though.”。日付は投稿 ID から復元) ↩

  23. Bitget News(Odaily 転載), Luke Gromen: Has sold most of his BTC in the $95,000 to $96,000 range(2026年3月14日。Danny Knowles との対話の要約。9万5,000〜9万6,000ドルでの売却、金融ストレス局面での劣後、マネーサプライへの無反応、ゴールドに対する5年の横ばい。本人の逐語ではない) ↩ ↩2

  24. ChainCatcher, Luke Gromen: Why I Sold Most of My Bitcoin at the End of 2025(2025年12月28日。本人の年末の動画の翻訳。”I did not liquidate my Bitcoin holdings. I still have a long-term positive outlook on it.”、”I did sell off a significant portion of my holdings, not due to emotions or price, but because my judgment about ‘sequence’ has changed.”、”Bitcoin’s trading behavior resembles that of a high Beta tech stock.”、”Bitcoin, in the current system, is precisely the ‘equity layer.’“、”Before the policy truly shifts, before ‘nuclear-level responses’ emerge, I prefer to step away from the most vulnerable layer of the capital structure.”。中国語からの重訳であることに注意) ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  25. Cointelegraph, Why Luke Gromen is fading Bitcoin while staying bullish on debasement(2025年12月29日。RiskReversal での発言の要約。ゴールド建てで約40オンスから約20オンス、三つの計器(ゴールド建て価格、200日単純移動平均、ETF フロー)、4万ドル前後が “possible in 2026”) ↩ ↩2 ↩3